セミナー最終レポート

開会挨拶
國領 二郎 氏
慶應義塾大学 常任理事
國領 二郎 氏

  今日の情報技術は、単なる便利な道具を超えて、今日の社会構造に非常に大きな影響を与えるものになりつつあるのではないかという認識を、慶応義塾全体として強く持っています。 例えば市場という考え方や、所有という考え方、経済構造の面などで様々なインパクトが出てきているからです。 さらにより深いところでは、自我や自己など人間性の根本の部分にまで影響があるのではないかと考えています。


  この深いテーマを正面から捉えるために、慶応義塾ではサイバー文明研究センター(Cyber Civilization Center)を設立しました。 米国連邦通信委員会(FCC)の最高技術責任者も務めたカーネギーメロン大学教授のDavid Farber 博士をお迎えし、村井純氏とともに共同センター長として研究を強力に進める体制を整えつつあります。 こうした文脈の中、本日の会議が開催されるのは大変意義深いことであり、今後の社会構造の良い変化に貢献するための一歩になると、大きな期待を寄せています。


平井 卓也 氏
衆議院議員
自由民主党 広報本部長 IT 戦略特命委員長
平井 卓也 氏

  2001年に「IT 基本法」が設立されました。 これは政府提出法案ですが、法律には二種類あり、議員立法で手がけた代表的な関連法に「サイバーセキュリティ基本法」と「官民データ活用推進基本法」があります。 こちらは、省庁横断的な法律を作る目的で、時代に即した法律の発議を議員の力で進めました。 今年中に、同じく議員立法で「デジタルファースト法案」を提出する予定です。


  その背景として、グローバル化とデジタル化が不可逆的に進む中で、「Society 5.0」を政府がきちんと説明できるようにする。 つまり、デジタル化はあくまでも手段であると捉え、望むべき社会像を共有していないと、高齢化の進む日本社会においてはストレスが大きくなってしまいます。 ですから、法案はすべてデジタルを原則にして物事を進め、社会の生産性を上げていくことを目指しますが、一方で人間とのインターフェイスは徹底的にやさしくしようと考えています。 デジタルであることやテクノロジーを意識しないIT 社会をつくりたいのです。


  今後「Society 5.0」に向けて、AIが本当に人にとってやさしい使われ方をする社会がつくれるのか。一方で、AIが人に代わって仕事をすれば、人の仕事がなくなるのではという心配をする人たちもいます。 あくまでもヒューマンセントリックな進化をしていくということを、どうやって我々が担保していくのかが大切なのではないかと考えています。人にやさしく、生産性が高く、目指すべき「Society 5.0」にどう結び付けていくのか。 世の中が大きく変わる中、人間が幸せになれる「For Goodである」というところを、皆様と共有できればと思っています。 秋の法案作りに向けて、國領先生はじめ、皆様とも議論を深められることを期待しています。


Brad Smith 氏
マイクロソフト コーポレーション
プレジデント 兼 最高法務責任者
Brad Smith 氏

  はじめに、この度、平成30年7月豪雨災害でお亡くなりになられた方々に心よりお悔やみを申し上げますとともに、すべての被災者の皆様にお見舞い申し上げます。 私どもとしても、できる限りのお手伝いができるように努めてまいります。日々の生活の中で、どのように困難に立ち向かうかについて考えさせられ、また、情報技術の果たすべき役割について改めて考える機会でもあるように感じております。 そして、本日のテーマであるAIが、今後どのような新たな可能性をもたらすことができるのか、「Society 5.0」に日本が向かう中で、日本社会の中で、さらには世界へ日本から発信する形で、AIがより良い社会の実現に向けて寄与できるのかについて考える機会になればと思います。


  AIについて議論するにあたって、その定義が神秘的でさえあるために、少し細分化して理屈を考えた方が理解しやすいかもしれません。 まず、人工知能=AIとは、世界で起きている事象をコンピューターが理解するということです。それはどういうことかというと、そもそも人間が行っていることですが、まず、周りで起きていることについて見たり、話されていることを聴いたりすることを通じて、他人の言動を理解するということ。 さらに、考える力を通じて、話されている言葉の意味を理解するということ。人間にとっては、それは一つの言語から別の言語に翻訳をすることだったりもします。そして、知識を蓄積することによって、理由付けすること。そうしたプロセスを通じて、AI は、まさに日々人間と同じように、世の中の事象について理解することができるようになるのです。


セミナー風景

  コンピューターサイエンスの世界でAIが登場したのは1950年代に遡りますが、私どもマイクロソフトの研究成果の多くは、ここアジアで実を結びました。特に北京のマイクロソフトリサーチセンターの研究者たちは、日本を含むアジア各国の大学関係者と連携し、例えば視覚では、2016年に96%の精度で画像認識ができるようになりました。 2017年には、数十年にわたる研究の成果として、人間の音声を94.6%の精度で認識できるようになりました。これは人間と同等のレベルです。さらに今年2018年には、二つの大きな成果を収めることができました。まず、中国語の新聞を英訳する形で測定されたものですが、翻訳精度を70%まで上げることができました。 さらに、ごく最近ですが、新聞記事の内容を理解して、AI が質問に答えられるようになりました。例えば教授が学生に記事を渡し、その内容について質疑するように、コンピューターも質問された内容について答えられるようになってきました。この正確性は現在89%ですが、今後ますます精度が向上するでしょう。

  このようなAIの進化を通じて、コンピューターが社会においてより有益な形で役割を果たすことができると考えています。日本のような高齢化が進んでいる国では、AIを活用することで不足する単純労働の補強が可能になるかもしれません。農業の分野でも、生産性向上のための様々な活用方法が既に編み出されています。 さらに、災害時には救援活動を行う上での判断材料をAIが人間に提供できるでしょう。AIの利活用は、非常に大きな潜在能力を持っているのです。このようにAIがもつ良い面は無限にありますが、逆の可能性も考えなくてはいけません。 テクノロジーの進化は、意図しない結果も含めて、見落としがちなことも多いからです。 今年亡くなられた理論物理学者のStephenHawking 氏は、晩年「AIが、人間そのものを置き換えてしまうのではないか」という警告を発しました。一つ明確なことがあります。 コンピューターが人間により近い形で振る舞うとき、コンピューターに何をさせるのか、その責任を負うのは人間なのです。


Brad Smith 氏

  そのため、AIの活用を進めるにあたって最初に取り組むべきことは、倫理(Ethics)の課題です。 私たちは開発のベースとして、①「公平性」(見えないバイアスを取り除くということ) ②「信頼性と安全性」 ③「プライバシーとセキュリティ」(AI はたくさんのデータに基づいて育てられるため) ④「多様性」(年齢、性別等) ⑤「透明性」(どのような開発がされているのか) ⑥「説明責任」(コンピューターは人間への説明責任があり、コンピューターの仕組みをデザインする当事者は、社会への説明責任がある)という、AIに求められる6つの倫理原則を掲げました。 当然これで、この世界で考えるべきすべての倫理課題に対応していると言うつもりはありません。ただ「議論」のきっかけを創りたかったのです。また、マイクロソフトの開発者に一つの方向性を示す必要性も感じていました。 例えば書籍『Futured Computed』の中でも紹介した「ヒポクラテスの誓詞」を開発者に求めることができるのか。あるいは、AIを育てる上で「唯一無二の価値観」といっても、それは果たして、西洋哲学の考え方に基づいたものなのか東洋哲学の考え方なのかを考えなければならないということ。 AIのような地球規模に活用されるテクノロジーについて今後議論していくにあたっては、「西洋」と「東洋」と交えた議論が必要だと思うのです。まさに地球規模の対話です。そして、それは新しい法体系にもつながるでしょう。 AIの開発に携わる人が、ある一定の倫理規範の中で開発することが期待されるからです。


  私たちは、AIの未来に向かってどのように準備するべきなのでしょうか。 まず、仕事の面では、既に過去15年間で変化が起きています。職業のデジタル化は顕著であり、デジタルに関わる仕事に支払われる報酬が、そうでない仕事よりも多いことも事実です。つまり将来的により多くの人々が安定した収入を得ていく上では、デジタルスキルを学ぶ機会を増やしていく必要があります。その内容は多様ですが、一つ明確なことは、プログラミングスキルやコンピューターサイエンスに触れる機会を増やしていく必要性です。 日本でも既に3万人の子どもたちが「Hour of Code」というプログラミングの第一歩となる活動に参加しています。いずれそのスキルは、ソフトウェアの開発につながるものとなります。すべての子どもや若者に機会が提供されなければならないと考えています。


  スキル形成の重要性は高まっており、また、生涯にわたってスキルを磨き続けていかなければならないことも明らかになってきています。今の仕事を続けるため、あるいは次の仕事に就くためにも、学び続けなければなりません。 コンピューターサイエンス、エンジニアリング、数学などの知識はもちろん必要ですが、純文学、社会科学といった分野も、同時に重要になっています。「コンピューターに何を頼むのか?」、それはつまり、コンピューターに人間のように考えてほしいということであり、マイクロソフトをはじめとするテクノロジー企業やコンピューターサイエンティストは、哲学や人文科学、経済学、歴史、政治学などの知識を持つ人々と今まで以上にともに協議して、AIをつくり上げていくことが求められています。


  最後に皆様に申し上げたいのは、私たちはAIを通じて、地球規模の課題解決を推進していかなければならない、ということです。 マイクロソフトではその手段として、昨年二つのプログラムを発表しました。一つ目のプログラムである「AI for Earth」(地球のためのAI利活用)は、AIを通じて「、生物多様性」「水資源の管理」「農業」「気候変動」という喫緊する4つの環境課題に立ち向かう研究開発を促進することを目的としています。

  二つ目のプログラムである「AI for Accessibility」は、障がいのある方々にAIを活用していただくことで、自立と社会参画の機会をより増やしたい、というものです。世界では7人に1人がなんらかの障がいをもつと言われており、その数は10億人にも達します。この方々がコンピューターによって見えたり、聞こえたりしたら、どのような可能性を考えられるでしょう?

  世界には、AIが解決できる様々な課題があります。AIの利活用を倫理的に考え、人々にスキル習得の機会を創出することで、AIが地球規模の大きな課題に対応していくことができるようになれば、我々はより明るい未来、より良い世界へと向かうことができるでしょう。


AIが日本にもたらす超スマートな社会
2100年を生きる子どもたちのために、土台から作り替える教育改革

  サイバー空間とフィジカルな空間が高度に融合する「Society 5.0」の時代を迎えると、単に便利になるだけでなく、社会の構造自体が変わっていくことになります。文部科学省が取り組む人材育成という側面から言えば、2100年まで生きる子どもたちのために、土台を作り変える必要があります。

  日本では、2020年から学習指導要領を抜本的に変え、大学入試も40年ぶりに大きく変えることが決まっていますが、そのキーワードとなるのは「公正に個別最適化された学び」、学びのポートフォリオをどのようにつくっていくかということです。 その実現のために、教育のビッグデータ=スタディーログをしっかりと集め、分析して、個人の認知と特性を踏まえた上での支援、すなわち認知科学教育におけるビッグデータの活用を目指しています。今までの、同じ学年の子どもたちを集めて決まった時間で一律に授業を提供するという学習観・学校観とは異なる、非連続に変わる学びを実現していかなければならないのです。 その際には、オープンなユビキタスラーニング、つまり大学・公民館・地域など様々な主体とともに学びを作っていくことも必要です。


  もう一つのキーワードは「文理分断からの脱却」です。日本では大正8年から文系・理系という分け方をしてきましたが、これを卒業する必要があります。これからは、読解力・数的理解・情報活用能力がすべての人々に必要だからです。 そのために新しい学習指導要領でも、小学校からプログラミングを導入します。そして2024年には大学入試共通テストに情報を入れます。58万人の国立・公立・私立を受験する学生すべてが受ける入試センター試験に情報の教科が含まれるようになり、文系でも数学やプログラミングを高校3年生まで学ぶことになります。 日本の学生のプログラミング能力は劇的に上がるでしょう。一方で、理系の人たちもELSI(Ethical, Legal and Social Issues)をきちんと学び理解することを、2020年から2030年にかけて集中的に進めていきます。 文系理系を超えた教育の実現です。STEAM(STEM+Art)を通じた学部学科の再編、高校の学びの改変を実現していく上で、AIあるいはそのテクノロジー、リサーチャーやエンジニアなどとのコラボレーションは大きな鍵になっていくでしょう。

AIを活用して、災害に強く、災害を予防できる社会を作る

  私たちの研究所は、東日本大震災の後に設立され、災害に対応するための科学的なアプローチを広域にカバーしています。現在、私は越村教授の指導のもとにAIやリモートセンシングの力を使って、災害・減災に役立つ研究を進めています。

  まず重要な取り組みとしているのが、災害による被害情報を地図上にマッピングしていくことです。2018年7月の西日本豪雨災害のとき、政府は2つの課題に直面しました。 「どのエリアへ優先的に救援に向かえばいいのか」「どうすれば救援チームが安全に現地に向かえるのか」ということです。例えば、災害が起きた後は病院に行く需要が増えますが、マッピングをすることによって、病院への最適ルートの探索が可能になるのです。

  リモートセンシング・データサイエンス・AIを組み合わせて災害に負けない社会を築くための開発に、マイクロソフトのAzureサービスが役立っています。非常に高性能のコンピューティングと最新のディープラーニングのアルゴリズムを活用して、被災地の情報を学習させることができます。学習モデルをつくることで、同じような災害が起こったときに、減災・災害管理に携わる方たちに使っていただくことができるのです。ただし、実際の災害情報からの学習モデルは、現状では同種の災害にしか適応できません。様々なケースに対応できるようなモデルに進化させるために、改善作業を続けているところです。

  また、災害のみならず、森林伐採のような長期的な課題についてもモデルを作っていきたいと思います。AIと衛星の観測データを活用して、森林伐採の様子をモニターし、森林伐採がどう進んでいくのかを把握することができます。そして、森林がどうして消失してしまったのかを知ることで、他の森林が悪化するのを止めることができる、予防することができるようになります。

  AIの活用には、高い能力を持つデータサイエンティストや高品質なアルゴリズムが必要になりますが、日本はそこに長けています。 また、Sentinel Asia(アジア太平洋地域の災害支援の枠組み)を通じてアジア各国の災害支援に対してもリーダーシップを発揮できると考えています。AIの活用によって、今後さらに災害に強い社会につなげていけるのではないかと考えます。

AIが、人と仕事、社会をつなぐ役割を担う社会に

  日本はすでに超高齢社会に突入しており、2055年には人口ピラミッドはきれいな逆三角形型になります。1人の若者が1人のシニアを支える社会になり、現在の社会構造や価値観のままだと持続困難であることが見えています。 しかし、支えられる存在とされてきた高齢者層の9割以上は、実は自立した生活を営んでいる非常に元気な方たちです。 情報通信技術を活用して、この方たちが活躍できる環境を生み出せれば、元気な高齢者が少数の若者をサポートする、世代間が協調した新しい社会モデルをつくることが可能になってきます。

  しかし、高齢者のケアに関しては科学技術の研究開発は広く行われているのに対して、定年退職した後の長い元気な期間をどのように過ごすのか、をサポートするテクノロジーは議論が進んでいません。高齢者を専門に扱う研究分野=ジェロントロジー(老年学)にAIをどう適用していくのかということが、私たちの重要な研究テーマの一つとなっています。

  ジェロントロジーでは、高齢者の行動支援・健康増進・いきがい・社会参加の領域にわたってQoL(Quality of Life)を向上させるための研究が行われています。 それぞれに対して、私たちはVR・AI・ロボティクスなどのテクノロジーの適用による課題達成に取り組んでいます。例えば、行動支援ではテレプレゼンスロボットと実世界認識AIを活用した遠隔活動の実現、健康増進ではマイクロソフトのKinectを活用した姿勢認識と改善、いきがいに関してはVRを使った擬似的な旅行体験を提供する技術の研究開発を進めています。

  そして、社会参加に関して「GBER(Gathering Brisk Elderly in the Region)」という高齢者就労を支援するサービスの構築を進めています。 これは、地域における人材のニーズと、社会参加をしたいシニアとのマッチングを行うサービスです。働くと年金が減るというような現在の法制度とどのような調整を採っていくかという課題はありますが、より高度なAI技術を導入していくことで、個人の時間・場所・興味だけにとどまらず、スキルや健康状態など、個人の多様な価値観に合わせたきめ細やかなマッチングを実現していきたいと考えています。

  AIは人の仕事を奪うとも言われますが、実はAIには、人と仕事、そして社会をつなぐ役割があるのではないでしょうか。その可能性を、研究開発を通じて示していけたらと、強く願っています。

官民データをつなげ、活用するプラットフォーム作りを進める

  日本の包括的なIT 戦略は、2013年に総理から抜本的な見直しの指示が出て以来、政府全体として極めて重要であると認識され、情報利活用を推進する形で進められてきました。 ここ数年で特に力を入れているのが、オープンデータ、および官民データの活用です。データ流通が拡大する中で、政府の保有するデータや様々な取引・手続きの情報を民間の方々に活用いただけるよう、政府全体が働きかけを進めています。

  中でも大きいのは、「官民データ活用推進基本法」に基づき、都道府県に対しても、自分たちの保有するデータ等のリソースについて、具体的に計画を立て、オープンデータを含めた取り組みを義務付けたことです。市区町村では努力義務という形になっていますが、国内の関連法規の改定や、EUの一般データ保護規則への対応等を踏まえて、皆さんにデータをお使いいただく環境を整えました。 すでに各都道府県で官民データ活用推進計画を策定し、オープンデータの取り組みも100%となっています。市区町村においては現在約19%ですが、順次伸びています。

  データ活用が最も進んでいるのが、農業分野です。1年半前に、農機メーカーから肥料メーカーまでを含めた日本のあらゆる農業データを集約した連携基盤を立ち上げる動きを開始しました。もう一つは、様々な公的機関や研究機関が有する情報を集約し、APIベースでつなげ、ビッグデータを使って取り組む、まさにAIを使った基盤を作ろうという取り組みです。 現在、マイクロソフトのAzure上で、農業データ連携基盤が稼働を開始しています。運営を担う協議会には国内194の企業が参画し、50を超える組織が農業データの連携を始めています。慶応義塾大学では、このようにアジア圏内を対象に、様々な連携が可能なオープンなプラットフォームを構築し、もともと企業が持っていない情報をオープンデータ化し、官民データと融合させ、さらにAIの音声認識や手書き文字認識を活用することで、農業分野におけるイノベーションを起こしていこうと考えています。 今後はこうした取り組みを、生産現場から流通、小売、加工までつなげ、グローバルフードチェーンという形で物流までを支える基盤として、展開していきたいと考えています。

データを公開することと、産官学が連携することの重要性

  ご紹介いただいた事例は非常に広範囲にわたるものであり、AIを利活用した実用的なソリューションがすべての人々にとって利活用できる環境を整えることが大切だと思いました。また、政府にしろ、企業にしろ、データがデジタル化されていないことによって、利活用が進まず、経済が後退してしまう危険性について理解し、データの電子化とともに、そのデータの利活用される取り組みを率先して進めなければならないように思います。ここでは特に大学に果たせる役割が大きいと感じました。

加えて、学術界と政府、産業界が協業する重要性を認識することが必要です。重要なデータは多くの場合に政府が保持しており、政府は自らが所有するそのデータを、社会や経済の発展のためにも活用できるようにすることで、大きな役割を果たせるでしょう。官民、さらに学術界が加わることによって、こうした取り組みをさらに広げていくことができるのではないでしょうか。


各省庁との意見交換
各省庁との意見交換

井上 知義 氏

  総務省では、産学官の研究者による「AIネットワーク社会推進会議」を開催しています。AIの開発や利活用における法制度や倫理面を中心に議論が進められています。 昨日、AI 利活用原則案について取りまとめました。その成果については、今後G7・OECD、或いはG20といった国際的議論の場で日本発の提案として発表してまいります。倫理面での検討が進むことで、AIが持つリスク・課題を明らかにすることができ、AIの開発者やAIを利活用する方々が過度な萎縮をすることなく、開発や利活用が促進されるという好循環が生まれてくると考えています。


伊藤 禎則 氏

   働き方改革の目的は、労働時間の削減だけではありません。人生100年時代、AIの時代に、人がどう働き学ぶか、AIによって人の雇用がどう変わるのか、学び続けるシステムをどう作っていくかということが中心課題です。そのためにまず「学校3.0」と連動する形で、大人の学び=リカレント教育の仕組み強化に取り組んでいます。折角の機会ですので、二つの課題提起をいたします。

  ①この2年間、テクノロジーの普及によって大人の学びのハードルは、かなり下がってきています。しかし、学ぶモチベーション(Learn how to learn)については課題が多く、例えばAIの普及が自分の生活をどのように豊かにしてくれるかを理解しきれないために、大人たちの中で学ぶモチベーションが生まれないという課題があります。 AIの発展により、このテクノロジーの恩恵にあずかるのが一部の人とならないように、社会での普及を推進することが重要です。

  ②AIの発展のためにはデータが非常に大きな役割を果たしますが、一部の国では政府がデータの収集を積極的に推進している例がみられます。AIの民主化、より多くの人々にAIの恩恵について普及していく上で、例えばデータ覇権主義にならないようなモデル創りを検討していくことが重要です。


Brad Smith 氏

  IT 革命は30〜40年前から始まりました。パソコンが一般家庭に普及して、まさにITの民主化が実現しました。その時の学びをAIの普及に置き換えて考えていく必要があるように思います。

  まずなすべきことは、AIのツールが多くの人々や組織に提供されることです。例えば、視覚や音声の認識が必要な人がいれば、それを使える状態にする。そして誰もがAI関連サービスを使って、思い思いに開発できるようにする。こうしたツールを提供することによって、AIの普及を加速し、AIの民主化を実現することができます。 そしてその先には、AI関連スキルを人々が学ぶということがあります。政府機関や産業界においても、スキルがなければAIを使いこなせないということに気づくでしょう。パソコンの普及の過程で、人々は文章作成の方法やメールの書き方を学びました。 それらは今となっては当然のスキルですが、1980年代にはまったく新しいことだったのです。その時のモチベーションについて考えてみると、人々はパソコンを使うことで今までできなかったことができると確信していました。自らのスキル形成や仕事をしていく上でも、その重要性を理解できたのです。

  また、1988〜1998年の間に、企業が社員教育を積極的に推進したことも忘れてはならない事実です。そうした企業の投資は、ここ10年間は下降傾向にあります。パソコンの普及期にそうであったように、もう一度企業がスキル形成にも積極的に関わることを考えなければならないのではないでしょうか。 そのトレーニングの方法も、動画やゲーミフィケーション含めて非常に多様化しており、楽しめる可能性があるのではないかと思います。

井上 知義 氏
総務省
情報通信政策研究
所長
井上 知義 氏
伊藤 禎則 氏
経済産業省 大臣官房参事官
(経済産業政策局担当)
兼 産業人材政策室長
伊藤 禎則 氏
荘司 誠 氏
外務省
官房総務課
課長補佐
荘司 誠 氏
稲畑 航平 氏
文部科学省
大臣官房政策課
専門官
稲畑 航平 氏

荘司 誠 氏

  今後の国際社会でITツールをきちんと使えるようにするためには、セキュリティは非常に重要なものであるという認識をもっております。我々専門家がどうカバーしていくかが極めて重要なミッションとなります。サイバー攻撃を防ぎ、エンドユーザーが安全にITのメリットを享受するための環境の重要性も認識しています。


稲畑 航平 氏

  今後「Society 5.0」においては、人材育成がより重要性を増すと強い問題意識をもっております。先月末に文科省はレポートを発表しましたが、AIやビッグデータを活用して、これまでの固定化された教育を、より公正で個別最適化されたものにする。そして文系・理系からの脱却を考えています。 この取り組みでは、文部科学省の伝統とは異なり、林文部科学大臣と鈴木補佐官の強いリーダーシップの下で若手有志職員が議論に参加しており、非常に野心的で冒険的なものになっています。社会全体と対話しながら申し上げた方向性を推進してまいります。


國領 二郎 氏

  「Society 5.0」に向けてアカデミアの役割についてどのようにお考えでしょうか。また、国際社会の連携において、政治体制や法哲学的な考え方の違い、文化的・歴史的な違いにはかなり大きなものがあると感じています。このような側面を乗り越えていく上での考え方について意見をお聞かせください。

セミナー風景

Brad Smith氏

  まずアカデミアの役割についてお話させていただきます。AIが広まっていく中で、その源泉はどこにあるかというと、コンピューターサイエンス、あるいはデータサイエンスの学術分野であると思います。そして、IT企業と大学とが連携してその発展を後押ししていく構図は、今後ますます増えていくでしょう。 それとともに、研究開発の領域を超えて、例えば教育をよりよくしていくためのAI利活用など、大学内の様々な活動の中にAIが浸透していく動きもみられるようになるでしょう。例えば、社会学や心理学におけるAI利活用などがそのような事例にあたります。 大学におけるすべての学科において、AIは何かしらの変化をもたらす可能性を秘めていると思います。

  一つ面白い事例として、13世紀のエジプト研究におけるAIの活用についてご紹介しましょう。この分野では、世界中に散在する文献をデジタルデータにすることで、様々な文献の関連性を導き出すアルゴリズムが開発され、13世紀におけるエジプト社会についてより明確に理解することができるようになってきました。このように、I Tとは遠いと感じられる研究分野においてさえ、AIが効能を果たせるなら、世界中の大学で様々な活用の可能性があると考えられるのではないでしょうか。 

  次にサイバーセキュリティについてですが、AIが発展していく中で、セキュリティの重要性、つまり何かが起きてしまった際のインパクトは、より一層高まっていきます。そして国境を越えても、ある一定の規範の中で人々が行動をとれるような枠組みづくりが重要になると考えています。コンピューターサイエンス分野の発展や、企業がより強固なサイバーセキュリティを実現していくための技術開発も重要になりますが、技術の発展のみならず、それが社会により浸透するための仕組みづくり、例えば、中小企業であっても一流のサイバーセキュリティ防御態勢の中で活動ができるといったエコシステムを考えていくことが重要だと思います。 クラウド利活用は、一つのソリューションになるでしょう。これまで自社で当てていたパッチをクラウド提供者に任せることができるからです。そして、そうした技術的な配慮とともに、新しい法体系の整備、国際的な取り組みも必要です。 攻撃はしばしば国外から行われるものだからです。

  だからこそマイクロソフトでは、国際的な規範創りと、国境を越えた国同士の対話にも積極的に関わるようにしています。こうした動きを踏まえると、大学ではITを専門とする学部だけではなく、国際政治や政策を専門とする研究者に、国際的な対話の場で専門的な立場から発言していただくことがとても重要であると思っています。

  AIは今後、とてもユニークな形で、より社会のあらゆるところに浸透し、そして私たちが学ぶ内容にも幅広く影響を及ぼしていくでしょう。


鈴木寛 氏

  本日この会場には、産業界、学会、そして政府関係者が集まりました。きっと、この壇上に上がれば、全員が濃密なプレゼンテーションをして下さると思います。また、今後何らかの形で、次のAI 時代を創り上げるリーダーとなっていかれるでしょう。日本にはこのように素晴らしいプロジェクトが数多くあることを海外にも知っていただき、そして、本日のこのセッションを機会に、会場の皆様の関係性が強まり、対話の場が増えていくことを期待いたします。

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